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第67回富士登山競走 5合目コース

午前2時過ぎに仕事が終わり、会社のソファで3時まで横になったあとタクシーで新宿へ。新宿西口4時初のバスで富士吉田市へ向かう。富士登山競走のために。 仕事明けで走ることになる僕はバスでの移動時間に眠るプランを立てていたのだが、緊張しているのか仕事中に止まらなかったあくびがピタリと止んだ。音楽を聞いて目を閉じる。音楽が常に意識に入り込んでくる。弱ったな、これでは全然眠れないじゃないか。せめて目を休ませるだけでも……と目を閉じていたが、それでもバスが高速道路を降り、少しずつ到着地点に近づいているのがわかった。どうやら本当に僕は眠れずに富士吉田市役所に到着してしまったらしい。午前6時、仕事が終わってから4時間も経過していないのに、僕は山梨県に来てしまったのだ。

初心者は5合目コースから

ここで富士登山競走について簡単に説明すると、その名のとおり山梨県から富士山の頂上まで駆け上がる山岳レース。スタート地点からゴールまでの標高差は3000メートル。ゴールまでの制限時間はわずか4時間半と大変厳しく、完走率は5割を切る。最初から山頂コースに参加できるのではなく、まずは5合目コースで2時間25分を切らないと、頂上への挑戦権を得ることはできない。今回初参加の僕は5合目コースだ。

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市役所には、歴代の優勝者(猛者)たちの名前が刻まれたプレートが。第1回は昭和23年、伝統を感じる。

市役所に到着すると、頂上を目指すランナーたちが既に準備をしている。市民マラソンがブームになり数年、様々な人たちがマラソンを手軽に楽しめる時代になったが、この大会の雰囲気はそれらとは一線を画する。また山を舞台にしたトレイルランの大会とも異なる。ロード、トレイルを問わず鍛えぬいた肉体の持ち主たちばかりなのだ。「ゆるゆるランナー」みたいなのが……ほとんどいない。ピリっとした空気が漂っている。 仕事明けで到着した僕は、ワイシャツ姿という大変場違いな出で立ちだったので着替える必要があった。更衣室の場所をスタッフに尋ねると「用意がない」という。これだけでいかにこの大会が硬派なのかがわかる。シャツから下着まで何もかもを着替える必要があったので、建物の影を探してさっさと着替える。 事前案内を読んでいなかったが、どうやら荷物を2つに分けて預けるらしい。事前に送付されていた大きい袋にはバッグを。小さい緑色のビニール袋には、5合目地点で受け取るものを入れておくらしい。5合目の袋には、財布と下着を含む着替えを一式入れておいた。5合目からバスで山を下るのに時間がかかるっぽいので。 そんなパッキングをしていると、山頂コースのスタート時間が近づいてきた。

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午前7時、頂上コースがスタート。トップランナーを先頭に目指すは富士山頂1点。

猛者だけが出場を許される山頂コース。身体も装備も余計なものを限界まで削ぎ落としたトップランナーたちが列の最前列に並ぶ。前回優勝者は松本大選手、6月に走ったスパトレイルのプロデューサーの一人だ。鏑木さんのように彼も連覇を成し遂げるのだろうか、がんばってほしいな、なんて思っているうちに山頂コースのランナーたちはいなくなってしまった。

軽量化と水分 どちらを優先すべきか
 スタートの前に装備の話を。
事前に5合目コースを走った方のブログを読んでいると登りオンリーのコースゆえ、いかに身軽に走るかがタイムをクリアするうえでも大事だという話だった。給水所も随所にあるのでトレランのようなリュックは不要とのこと。
問題は水分だ。給水所まで走れば問題なしという意見もあれば、ペットボトル1本を腰につけたという声もあってばらばら。軽量化にこだわればもちろんいらない。ただ、気温はスタート前に30度に達しようとしている。勝手のわからないコースだ。給水所があるといっても距離感が、わからない。
悩んだ末、今回はこの装備で挑むことにした。
  • サンバイザー Mountain Hardwear
  • タンクトップ Patagonia
  • ショートパンツ THE NORTH FACE(Flyweight Racing Short)
  • シューズ vibram TREKSPORT
TNFのパンツはウェスト部分がマルチポケットになっているタイプ。そこにSalmonのフラスク(250ml)を差し込む。中身はシンプルにアクエリアス(麦茶の次に味が飽きない)
フラスクをバックのポケットに入れてみたのだが、走ってみるとウェストが下がってくる。これはたまらん。そこでおなかのポケットに入れて走ってみると安定した。おなかが少しふくれてメタボリック度がアップするが、背に腹はかえられない。
結局僕は悩んで水分を持って走ることにしたのだが、この結果についてはレースの感想とともに後述することにしよう。

どんどん上がる気温、猛暑のなかスタート

5合目コースのスタートは、8時30分。山頂コースのスタートから90分後となる。その間、少し涼しかった気温は着実に上昇し、曇っていた空は青く、太陽の光が眩しくなっていく。これはひどい大会になりそうだな、イヤな予感しかしない。ランナーの殆どが日陰を見つけてはそこで時間を潰す。スタート直前には、至急されている水を首や腕にかけて冷やす……まだスタート前だというのに。 早くはじめてくれよ……これ以上暑くなったらたまらん……と思っていたが、いざスタートとなると「本当に走るのか……」とビビってしまう。この大会に関しては「楽しみ!」という気持ちは殆どなくて、おっかない気持ちのほうが多かった(だいたい僕は寝ていないのだ)

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登山競走恒例、出発前の「えいえいおー!」声をあげて不安を吹き飛ばす

 正攻法は「馬返しまで走れ!」

富士登山競走攻略の定番が「馬返し」まで走ること。ネットを見るとたくさんの人が言ってる、間違いない。 スタートから11km地点にある「馬返し」まではロード区間。この区間をしっかりと走りきることが頂上コース挑戦権へとつながるのだという。11kmロードを走るなんてなんともないと思うのだが、スタートの富士吉田市役所から馬返しまでの標高差は680メートル。これがきつい。

スタートして200メートル程度で左折し、そこからはず~っと登り坂。しかもスタート直後から富士浅間神社までの3キロの傾斜がいきなり超ハード。一直線で日陰がなく、じりじりと照りつける日差しを浴びながらひたすら上る。休む場所などない。歩きたくなるが序盤もいいとこ、即アウトだ。
寝不足なくせに眠気がないという不気味なコンディションのままスタートした僕は、とにかく安全第一。ハセツネ30Kのようなスタートから力むようなことはなく、自然体で走った。
最初の給水、3kmの富士浅間神社ではさっそくアタマに水をかける。熱中症対策だ。水だけかと思ったら、丁寧にアクエリアスまである。ありがたい。コップ2杯飲んで安全第一で進む。神社のなかに入ると、さっきまでの傾斜がなくなる。「登りじゃなかったっけ?これはラッキーだ」と思ったのは、ほんのつかの間。走っているつもりでもスピードが出ない。おかしい、どうしてだろう。そうそう、傾斜がないように見えても着実に上っているのだ。序盤の傾斜が急だったので、感覚がおかしくなっている。青梅マラソンの往路で感じる上っているのに上っていない感覚に似ている。
次の給水、中の茶屋までは4.2km。この区間が長く感じられる。だらだらと上っているのがず~っと続く。景色に変化は感じられない。一直線の道。富士山は見えない。目の前にバーン見えるんじゃなかったのか・・・・・・。
中の茶屋では、係の人が桶で水をかけてくれる。タンクトップが一気に濡れて身体が冷える。つかの間の清涼感。がっつりアクエリアスとレモンをかじって、足を進める。次の給水が「馬返し」だ。
ここから「馬返し」までの区間がかなり傾斜がきつく感じられる。公式サイトには「ゆるやかな傾斜」とあるが緩やかとかいうレベルじゃない。歩く人が増えていく。だめだ、馬返しまでは走らなくてはならない。呪文のようにアタマのなかで詠唱しながら走る。走っている人が歩いているように見える。みんなスピードが出ていない。歩いているのと変わらない程度にまで速度が落ちていく。
もう10キロは走っただろう・・・・・とこの日のために用意したGPSウォッチの画面をはじめてのぞき込むと、驚くべきことに距離は1.7kmで止まっていた。なんどみても1.7km。操作ミスなのだろうか、はじめて使ってみたからわからない。ただタイムと標高は動いている。なぜか距離だけが表示されない。いったい、なぜ?
顔をゆがめて走り続けているなか、こんなトラブルまであって、馬返しなんて永久にやってこないんじゃないかという不安に陥る。とんでもない大会に出てしまった。
「もうゴールしてもいいよね」なんて声が聞こえてくる。そうだ、季節は夏……。
そして僕は歩いた。たぶん10kmはすぎていただろう。限界だった。自分の課した目標に負けた悔しさもあった。だが、この大会での目標は2時間25分以内にゴールして山頂への挑戦権を得ることだ。ここで歩いても、ゴールしたときにこの目標を達成すればいいのだ。少し回復したら走り、きつい傾斜は歩き……をこまめに繰り返す。当然まだ諦めてはいない。諦めるにはまだ早い。
馬返しからは歩きでいい
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ようやく11km地点の馬返しに到着。スタートからここまで地獄と呼ぶにふさわしい区間だった。

馬返しには1時間14分に到着。12分を目安にしていたので、悪くはないと判断。さぁここからが後半戦、ポケットに入れていたトップスピードのドリンクを飲み干し、アタマから水を被っていざ登頂。 走れる人は駆け上がるようだが、ここからは歩きでも間に合うらしい。ただ、歩くペースが遅い僕は少し心配。序盤はうまく身体が動いてくれなかったが、しばらく登っているとだいぶ楽になり、すいすい進むように。トレランの大会だと登りでたくさん抜かれるのに、この日は抜く側に転じていた。ロードラン寄りの人で登りに自信のない人はこの区間のペース、気を配ったほうがいい。登り一辺倒のなか、少しだけ走れる傾斜のところがある。そういうところは少しでも走った。タイムを縮小できる場所がほとんどないのだ。 あとは5合目までひたすら山登りというキツい区間だけど、今月走った北丹沢はもっとキツかった。この区間、体力には余裕ができていた。13km付近の最後の給水所では「残り2キロです」と言われた。時計を見る。距離は相変わらず1.7kmのままだが、時計と高度は動いている。制限時間まではあと30分以上ある。残り30分以上で残り2km、行けるぞ! 後半の登りもそれほどキツくない。足場は豊富で悩む必要もない。終盤、一度ごく短いロード区間に出るもすぐさま短いトレイルへ。そこを抜けてようやくゴール地点となる。緑の豊富な地点から視界が開け、突然殺風景な風景一色に。同じ山を登っているようには思えない。ゴールまでの直線も傾斜がそれほどあるように見えないけど、スピードが全然出ない。

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長かった、5合目コースのゴールイン。

タイムは2時間20分台。目標であった5合目のエントリー権をゲット。頂上コースの場合、5合目の関門時間が2時間20分ピッタリなのであと少しスピードアップしなくてはならない。頂上まで完走するには、かなり頑張る必要がある。

まとめ
  • 馬返しまでしっかり走れるかどうかが結果の半分以上を決めてしまう。5合目コースなら走力よりも気力がすべて
  • 馬返し以降、ロード系のランナーは登りでスピードが落ちるっぽい。普段トレランの大会で抜かれまくる僕が抜く展開になったので
  • ロードと山登りのトータルが求められる、突き抜けた走力がない場合、バランスが大切かも
  • 装備は軽装で、シューズも軽量重視。
  • 5合目までなら給水所でたっぷり水分補給すれば大丈夫、もっていく必要なし
  • ただしスタートまでの待機時間にのどが渇くので、100ml程度あると便利
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こんな天気で頂上は目視できず……。

はじめてだった富士山、めちゃくちゃ過酷だったけどすごく面白かった。これはハマる大会かも。 5合目で富士山に登った気分を味わったけど、普通は5合目から登山するんですよね……。来年、頂上まではムリでも8合目までは辿り着きたいなと思いました。